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 ◆テーマ:忘れられない出来事 (はやし通信 2002年三月号より 記:林 丈司) 

私の長男は、今小学校6年生です。お恥ずかしい話ですが、中学校受験のため4年生から三年間受験勉強に取り組んできました。十才のときから、毎週四日から五日間進学塾へ通ってきたのです。夕飯は塾で弁当を食べ、夜の9時半から10時ころ帰宅し、また寝る前に勉強をします。毎週日曜日には必ずテストがあり、その成績で席順やクラスが変えられます。中学受験の世界をよくご存じない方が聞いたら、異常な世界と思われるかもしれません。
実は、私も最初は「子供は遊んで育つべき」という理由から反対していたものの、「あの私立中学校に行きたい!」と意欲を見せる長男に、いつのまにか進んで勉強を教える様になっていました。

いよいよ今年の2月1日に第一希望の某私立中学校を受験し、次の日に発表を見に行きました。もちろん一緒の家内などは、ものすごく緊張しています。校庭に足を踏み入れるや否や、長男は静止も聞かず全速力で走り出しました。掲示板に張り出されている合格者一覧をしばらく見つめると、飛び上がって喜んでいます。受かりました。3年間の苦労が報われたのです。家内は泣いていますし、私も涙をこらえるのが精一杯でした。本当に良かった。この成功体験が彼の人生に良い影響を及ぼすことを願いました。

しかし、本当に忘れられない出来事はこのあとに起こったのです。合格書類をいただいて校庭から出ようとすると、植樹された校庭の木に見知らぬ子供がしがみついています。隣には顔を両手で覆っている母親らしき女性がいらっしゃいました。子供の腕を引っ張って「もう帰ろう・・・」と困った顔で言っているのは、父親でしょうか。その子は、「やだっ、帰りたくない!」と言って泣いているのです。運悪く不合格になり、それでも夢にまで見た中学校に入学したくて仕方ないのでしょう。その光景を見たら、さっきまでの私たちの喜びは消し飛んでしまいました。わすが十二歳の子供です。その子供にとっての三年間の受験勉強はどんなに辛かったことでしょう。遊びたいときに遊べず、眠いのを我慢して頑張ってきたのです。それはきっと、合格した子も合格しなかった子も同じはずです。私は思わず心の中で、「頑張れ!負けるなよ。まだ幼い君にはこれからチャンスがたくさんあるんだから」 と言っていました。

我々はいつのまにか大人になり、社会に出て、一人前になったような顔をしています。でも、我々大人は受験勉強をする子供たちの様に、「必ず達成するぞ!」と心から願う目標を常に持っているでしょうか。そして、受験勉強にほとんどの時間を費やす遊びたい盛りの子供ほど、多くのことを我慢して犠牲にして努力しているでしょうか。我々大人は、会社に、世の中に、まだまだ甘えているのではないかと思うのです。そしてあの、文字通り「何かにしがみついてでもあきらめきれないほどの想い」を忘れてはならないと思うのです。

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